本稿(2026/03/31脱稿)は、2025年11月9日大英研(新英語教育研究会 大阪支部)例会の発表「文法指導で大切にすること」を再構成し、画像を加筆したものです。
元の原稿は『なにわの英語教育 2026』(⼤英研実践記録集)として2026年6月刊行予定です。
1)文法指導で大切にすること



抽象的な話になりますが、ここで一つの灯(torch)を掲げます。私は東京都の公立の小・中・高校で学び、大学と主な職場は私学でした。公立と私学、それぞれの良さを活かした英語教育を意図しています。
英語教育が提供すべき力として、「物語の力」と「説明の力」という二大柱を私は掲げています。
「物語の力」とは、教育の場や身近な人々の間で、戦争と平和、差別と寛容、人々の思いについての物語や歴史を語り続けること。この地道な営みが人々の意識を変えていくと私は信じています。
「説明の力」とは、冷笑的な「上から目線」ではなく、多様な学びを通して物事を俯瞰する「批判的思考」(critical thinking)すなわち「洗練された懐疑」を抱けるようにすること。
しかし、これら二つの柱を支える第3の力として忘れてはならないのが「情緒・感性の力」です。数学者の岡潔さんや藤原正彦さんが「数学を支えているのは情緒である」と述べたように、言語学習もまた、美的なものや詩的なものに触れることで豊かになります。現行の教科書でもそうした感性を育む教材(英詩・諺・草花の名前)を取り戻すべきだと考えます。かつては lily → lilies(複数形「yをiにしてes」)が載っていました。Where have all the flowers gone? 花はどこに行ったのでしょう。具体的な(specific)草花を取り戻しましょう!

英文法は、これら「物語」「説明」「情緒」の力を脇役として支えるために存在しています。児童・生徒が歩む道を照らす灯(torch)として私が提案する「ルター式英文法」で以下の力を育んでいきます。
●物語や話し手の意図を正確に読み取る力
●説明文を組み立てる構成・論理力
●状況や聞き手に合わせて発信できる表現力
2)「英文法のルターさん」としてのミッション

❶ 明快な英文法解説
私が「ルター」を名乗るのには理由があります。現在の英語学習、特に進学校や予備校で見られる「問題を解く(solve the problem)」ことを目的化し、教員が正解を独占している状況は、さながらラテン語の聖書を独占していた中世のカトリック教会のようです。
本来、英語学習は「問いに答える(answer the question)」という、生きた対話の営みであるはずです。1517年にマルティン・ルターが聖書をドイツ語に訳し、誰もが自力で聖書を読めるようにしたように、私は生徒が自学自習できるよう、明快な英文法解説を「表組み(チャート)」にして提示し、学習の主権を生徒の手に取り戻したいと考えています。
❷ 授業で繰り返される「モグラ叩き」の悲劇

数十年前、私が大学1年の時の授業中、同級生がfinished[フィニシュトゥ]と発音できなかった時、先生はしかめ面をしました。この光景が今も心に残っています。数十年経っても同じ光景が教室で繰り返されているのではないでしょうか。【規則変化】finished「フィニシュトゥ」、watched[ウォチトゥ]、【不規則変化】found「ファゥンドゥ」、won「ワぁン」、risen「ゥリィズン」などの発音を間違える生徒を対症療法的に正す「モグラ叩き」状態。これは生徒の不勉強が原因ではありません。中学校の教科書の巻末資料に、先生が「ここを見て」と言える表組み、生徒が困った時に立ち返り、自ら解決できる参照
(refer)可能な表組みが欠落しているという、教科書の不備によるものです。
私は教科書の巻末付録に「つづりと発音のルール」の表組み(発音付き)を中学3年間掲載することを提案しています。また、以下の⑴⑵をYouTube動画(3分)で公開しています。
⑴【規則変化】es/edは「子音の分布」で明快!

① 三人称単数現在形(es)の発音「ズ」「ス」「ィズ」
- 覚え方:「ス」5音、「ィズ」6音、残りは「ズ」。
2文字を1音で発音する「ツ、ヅ、つ、づ」に注意。
② 過去形・過去分詞(ed)の発音「ドゥ」「トゥ」「ィドゥ」
- 覚え方1:「トゥ」7音、「ィドゥ」2音、残りは「ドゥ」。
- 覚え方2:語末の音が「トゥ」以外の無声音は「トゥ」、
「ドゥ」以外の有声音・母音は「ドゥ」。
「トゥ」と「ドゥ」が「ィドゥ」」。

| pt | helped | stopped | hoped | hopped |
| プトゥ | ヘェルプトゥ | ストォプトゥ | ホォゥプトゥ | ホォプトゥ |
| kt | liked | asked | talked | walked |
| クトゥ | ラァィクトゥ | アスクトゥ | トォークトゥ | ウォークトゥ |
| looked | cooked | baked | worked | |
| ルゥクトゥ | クゥクトゥ | ベェィクトゥ | ワァ~ァクトゥ | |
| ft | laughed | coughed | puffed | sniffed |
| フトゥ | ラァーフトゥ | コ(ー)フトゥ | パぁフトゥ | スニィフトゥ |
| θt | earthed | unearthed | ||
| すトゥ | ァ~ァすトゥ | ァンナァ~ァすトゥ | ||
| st | passed | mixed | danced | practiced |
| ストゥ | パァストゥ | ミィクストゥ | ダァンストゥ | プゥラァクティストゥ |
| ʃt | finished | washed | pushed | brushed |
| シュトゥ | フィニィシュトゥ | ウォシュトゥ | プゥシュトゥ | ブゥラぁシュトゥ |
| tʃt | watched | reached | touched | punched |
| チトゥ | ウォチトゥ | リィーチトゥ | タぁチトゥ | パぁンチトゥ |
| tid | wanted | visited | painted | started |
| ティドゥ | ウォンティドゥ | ヴィスィティドゥ | ペェィンティドゥ | スタァーァティドゥ |
| waited | invited | patted | admitted | |
| ヴィスィティドゥ | ィンヴァィティドゥ | パァティドゥ | ァドゥミィティドゥ | |
| did | decided | needed | handed | founded |
| ディドゥ | ディサァィディドゥ | ニィーディドゥ | ハァンディドゥ | ファゥンディドゥ |
| id | played | stayed | studied | dried |
| ィドゥ | プレェィドゥ | ステェィドゥ | スタぁディドゥ | ドゥラァィドゥ |
⑵【不規則変化】ルター式「発音でグループ化」
現行教科書ではアルファベット順のため、ABB型の下記5語が離れて掲載されています。

ABC型の下記4語の母音は、つづりではi-a-u、
発音では「イ」「ア」「ぁ」になっています。「ぁ」に注意!

❸ 不遇な文法事項【some】を救出!
⒈ 小学校英語でも使える、〈名詞クイズ〉

Q1「動物園でパンダを見た」(2頭以上なら… )
I saw ( )at the zoo.
(a) pandas
(b) some pandas

Q2「昨日スイカを食べた」
I ate ( ) yesterday.
(a) watermelon
(b) a watermelon
(c) some watermelon

Q3「昨日鶏肉を食べた」
I ate ( ) yesterday.
(a) chicken
(b) a chicken
(c) some chicken
〈名詞クイズ〉 答えと解説
答えはいずれも some を伴う(b)(c)(c)です。
現行の小学校教科書には「夏休みの思い出」を過去形で表現する課があり、pandasやwatermelonのような【無冠詞】が多用されていますが、それは文法的に不自然です。
具体的な出来事を語る過去形(saw/ate)と【無冠詞】は相性が良くありません。
【無冠詞】は「一般論」や「対比説明」で使われるもので、
「具体的な話題」には【a/an/some】を使うのが英語の論理です。



動詞の連結に注目してください。
❶無冠詞(一般論・対比説明)は、likeと連結
❷a/an/some(物語的提示)は、want/need/saw/ate 等と連結




⒉ like+【無冠詞】.「●●が好き」
【複数形】の作り方(①発音、②つづり)を網羅した次の2枚で小・中学校英語教科書のお悩み解決!


⒊ want/need/saw/ate+【a/an/some】
マーク・ピーターセンさんの『日本人の英語』で有名になった「鶏を1羽丸ごと食べた(a chicken)」という誤解を避けるためにも、口に入らない大きさのものは「切り身・果肉」として扱う someが不可欠です。スイカやメロンも同様に、1個丸ごとは食べないため、切り身は some watermelonとなります。


以上、不遇な文法事項【some】を救出しました!
3) 《名詞の使い方》 ルター式「8つの型」
〈名詞クイズ〉の答えは以下の表の型ではこうなります。
Q1(b) I saw some pandas at the zoo. → 5
Q2(c) I ate some watermelon. → 8
Q3(c) I ate some chicken. → 7
なぜ、【無冠詞】ではなく、someがつくのか、その理由をルター式「名詞の使い方 8つの型」で確認してください。

⑴〈話題の流れ〉❶一般論 → ❷具体的話題
❶【無冠詞】一般論・対比説明「並列に対比説明」「同類他者との違いで分かる」
❷【a/an/some】具体的な数量「直列に物語る」「どんなものか知る」
⑵〈画像の使用〉無冠詞の名詞に、絵はつけないで!
❶【無冠詞】文字だけで並列提示(画像なし)
❷【a/an/some】画像(イラスト・写真)を使う
⑶〈動詞の連結〉 この連結を教材で徹底したい!
❶ like+【無冠詞】
❷ want/need/saw/ate+【a/an/some】
※ ルター式「名詞の使い方 8つの型」
| 1 | 「犬が好き」型 | 【無冠詞】複数形C ┌ dogs 犬 ├ cats 猫 └ birds 鳥 |
| 2 | 「紅茶が好き」型 | 【無冠詞】単数形U ┌ tea 紅茶 └ coffee コーヒー |
| 3 | 「スイカが好き」型 | 【無冠詞】単数形C→U ┌ watermelon ├ melon └ pineapple |
| 4 | 「犬が欲しい」型 | a/an+単数形C a dog an apple |
| 5 | 「花火を見た」型 | some+複数形C some fireworks some cherries |
| 6 | 「靴が欲しい」型 | some+複数形(ペア)C some shoes some glasses |
| 7 | 「紅茶ください」型 | some+単数形U some tea some pie |
| 8 | 「スイカ食べた」型 | some+単数形C→U some watermelon some melon |



4)『プログレス』に学ぶ可視化の技術①名詞

こうした名詞の使い分けを明快に整理していたのが、ロバート・フリン先生による教材『プログレス(Progress in English)』でした。『プログレス』は、文科省検定教科書とは異なる「表組み(Box)」による英文構造の可視化が極めて秀逸です。




名詞の扱いで『プログレス』が秀逸な理由は3つあります。
- 「一般から具体へ」の流れ:I like cats.(無冠詞:一般論)から I want a cat / some cats.(冠詞あり:具体的)へ流れる論理構成。
- 上下での比較:数えられる名詞と数えられない名詞を上下に並べ、some が両方に使えることを一目で理解させる構成。
- 単語選定の妙:egg(数えられる名詞で単数・複数になる、母音始まりの an)という、基本要素をすべて含む単語を中央に据えている点。
5)『プログレス』に学ぶ可視化の技術②動詞
動詞の指導においても、可視化と音声の結びつきが重要です。以下は、『プログレス』の中学1年の過去形の提示です。こういう「表組み(Box)」が教科書に載っていたら、一目瞭然ではありませんか!



現行の教科書は、図表・画像(写真・イラスト)が過剰である一方、文法的にはあると良いと思う図表・画像がない状態です。不要な図表・画像(写真・イラスト)を排除し、このような文法に理論づけられた「型」を表組み(チャート)で提示することで、生徒は「なんとなく」ではなく「根拠を持って」英語の仕組みが理解できます。
おわりに:教科書への提言
現行の教科書は情報の断片化が著しく、生徒が「戻って確認できる」構造になっていません。名詞の数や動詞の変化といった基本こそ、体系的な表として提示すべきです。本稿で紹介したルター式の視点が、21世紀の「英語教育改革」の一助となれば幸いです。




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