「時制は2つ(現在時制と過去時制)設定することに意義がある」のです。
音楽の調が2つ(長調と短調)あるのと同じようなものなのです。
そして音楽に転調があって、
ひとつの曲が「長調→短調→長調」と曲調が変化するように、
英語の時制も、例えば
ひとつの論説文で段落ごとに「現在時制→過去時制→現在時制」と変化します。
その橋渡しになる【現在完了形】【used to】について注目します。
後半は、渡邊健一さんが企画されたテレビ番組『音楽の正体』(1994/8/3KBS京都放送)の「転調について」のメモです。音楽の転調と英語の時制を変えることの類似性にルターが気づくきっかけになった番組です。
段落ごとに「現在時制→過去時制→現在時制」と変化
時制とは文章の流れの調子のことなのです。
ある論説文のひとつの段落が説明調なのか物語調なのかということです。
1段落構成で現在時制《説明調》 【現在形】【現在完了形】を使って自己紹介
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1段落構成で過去時制《物語調》 「昔々あるところに…」と物語る
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3段落構成で「現在時制→過去時制→現在時制」(原則として元の調に戻る)
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3段落構成のモデル
●3段落構成で「現在時制→過去時制→現在時制」(原則として元の調に戻る) 1段落目は《説明調》 現在時制:【現在形】【現在進行形】【助動詞】など (【現在完了形】を使って自然な流れで物語調に移行して) 2段落目は《物語調》 過去時制:過去形の連続 (I used to ~, but I don't .「~したものだったが、今はしない」を使って) 3段落目は《説明調》 現在時制:【現在形】など、
「描出話法」、【現在完了形】と【used to】
音楽の長調と短調、2つに設定するから「転調」「無調」がある。
時制を2つ(現在時制と過去時制)に設定するから
転調のように2つの時制の切り替えが生じるので、その切り替えをスムーズに橋渡しする【現在完了形】と【used to】がお役立ちする。
また、無調のような「描出話法」(過去時制の「地の文」に現在時制の「会話文」を埋め込む)が文体のヴァリエーションとして存在する。
音楽の転調のように「現在時制→過去時制」を【現在完了形】でつなぐ
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音楽の転調のように「過去時制→現在時制」を【used to】でつなぐ
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音楽の無調のように、会話文を地の文に埋没させる【描出話法】がある
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1994年のテレビ番組『音楽の正体』のメモ 「転調」について
ルターが書いたブログ記事「2003-1-4会報担当の感想文(その20)」の転載です。
テレビ番組『音楽の正体』(1994/8/3KBS京都放送)
旅行先で偶然見たテレビ番組だったがいいヒントになった。
以下はその時のメモをまとめたものである。
ちなみに私は音楽自体は好きだが演奏できないし理論も弱い。というわけで、以下のメモにも間違いがあるかもしれない。でも転調に関して、かなりわかりやすくまとめてくれていたので、「半音上に転調」など具体的なことを知らない私にも言わんとすることは分かった。いい番組だった。大好きなクイーンのバイシクルレースは転調が多いという説明があって、それで面白く感じるのかと納得いった。
また、テレビ番組『題名のない音楽会』で今は亡き黛俊郎さんが司会をしていた頃、ドリカムの「晴れたらいいね」を評して、「転調したのに主調に戻らない不届きものの曲がある!」と怒りをあらわにしていたのを実際に見たことがある。その時は「なぜそんなに怒るのかな?」と思ったが、この番組を見て、すっきり理解できた。黛俊郎さんは最後は主調に戻ってくる音楽を重んじていたのに対し、ドリカムはそんな伝統的な曲調に対して「戻ってやるもんか」と分離(ディタッチメント:detachment)したかったのだ、文学界で村上春樹がどろどろした日本の文壇からdetachしたように。
でも、羽ばたいて出ていった放蕩息子もいつか帰ってくる。番組の最後の主張は「転調の歴史と全体像はこんな風だけれど、やっぱりほどよいのがいい」と一押ししていたのが、ギルバート・オサリバンの代表曲「Alone Again」。納得がいく1曲だ。
さて、文末の「私の気づいたこと」は仮説なので、みなさんには意味不明かも。音楽と文体の類似性に気づいたのは私にとっての大きな収穫だった。
実際に以下の曲を聴かれれば、(私を含め)音楽理論に詳しくない方もじゅうぶん納得いくことと思う。
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テレビ番組『音楽の正体』のメモ
■〈転調〉という名の「レトリック」:○を●と“見なす”、そして、転調する
テレビ番組『音楽の正体』(1994/8/3KBS京都放送)の中で、〈転調〉について紹介していた。〈転調〉とは、同じ「丸い球」を「水晶球」「天体」「サッカーボール」やなど、いろいろなものに「見なす」ことだと例えていた。
(1) 転調の歴史 | 曲 |
---|---|
(a) 規則正しい転調 | バッハの平均律クラヴィーア |
(b) 程よい転調 | ラベルなどのロマン派 |
(c) 無調 | シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」 |
(d) 程よい転調 | ギルバート・オサリバン Alone Again |
(2) 転調の基本的な技巧 | 曲 |
---|---|
(a) 次の調のIIをVに見なす | ベートーベン「月光」(嬰ハ短調⇒ホ長調) |
Bibby Coldwell Stay with Me(ト長調⇒変ロ長調) | |
(b) 同主調への転調 | 「ウルトラマンタロウ」(ヘ短調⇒ヘ長調) |
久保田早紀「異邦人」(ヘ短調⇒ヘ長調) | |
ベートーベン「ピアノソナタ第3番」(ホ長調⇒ホ短調) | |
「禁じられた遊び」(ホ長調⇒ホ短調) | |
(c) 半音上に転調 | Stevie Wonder I Just Called to Say I Love You(変ニ長調⇒ニ長調) |
ポップスの軽快な感じ | 米米クラブ「浪漫飛行」(ロ長調⇒ハ長調) |
(d) 3度上/3度下 | カン「愛は勝つ」 |
ショックがある感じ | 「ボレロ」(ハ長調⇒ホ長調) |
(e) 副5度を使う | チャゲ&飛鳥「SAY YES」 |
The Beatles Michelle |
(3) 転調の応用的な作品 | |
---|---|
(a) 転調したまま、主調に戻らない | ドリームズ・カム・トゥルー『晴れたらいいね』 (ハ長調⇒変ホ長調⇒ヘ長調) |
(b) 次々に転調する | Queen Bicycle Race |
松任谷由美「コバルトアワー」 ハ長調のラドシをIIと見なして、ト長調へ |
転調について学んだ結果、私が気づいたこと
転調の手法は、レトリックの〈直喩〉〈隠喩〉に適用できる
直喩「AはBのようだ」:「主調」のAから「~ようだ」という「伏線」をはってからBに「転調」(=主調〜疑似主調〜転調)
隠喩「AはBだ」:「主調」のAから、突然、Bに「転調」(=主調→転調)
佐藤信夫さんの『レトリック感覚』では〈直喩〉の方が唐突感・ショックがある
上記の考えでいくと「直喩の方が穏やかで、隠喩の方が唐突感・ショックがある」のように思える。
しかし、ここで是非、お伝えしたいのは、佐藤信夫さんの『レトリック感覚』(講談社学術文庫 1992)の「直喩」についての認識である。
駒子の唇は美しい蛭の輪のように滑らかであった。(川端康成『雪国』)
(中略)けれども、ここで私はそれを逆転させ、類似性にもとづいて直喩が成立するのではなく、逆に、《直喩によって類似性が成立する》のだと言いかえてみたい。「美しい蛭のような唇」という直喩によってヒルとくちびるとは互いに似ているのだという見かたが、著者から読者へ要求されるのである。
佐藤信夫『レトリック感覚』(講談社学術文庫 1992)p.80, 83
佐藤信夫さんの『レトリック感覚』『レトリック認識』『レトリックの記号論』『レトリックの意味論』はじっくり読み返したい本です。みなさんにもお薦めします。
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転調は、文法の「時制の移行」に適用できる
・現在時制の説明文に現在完了形で「伏線」をはってから過去時制の物語文へ「転調」
(=主調〜〜転調)
・現在時制の説明文から、突然、過去時制の物語
・会話体(現在時制)や物語文(過去時制)が「主調」で、そのなかで用いる、I used to ~, but I don’t.「〜したものだったが、今は~しない」の used toは「疑似主調」と言える。
番組企画をした渡邊健一さんについて
渡邊健一さんが番組のことをまとめて書かれた『音楽の正体』は未読ですが、音楽が理解できる方に是非お薦めしたいです。
『星の王子さまの幸福論』(扶桑社)はネット検索して古本で購入して読了。渡邊健一さんの優しいお人柄が伝わってくる、ルターが大好きな本です。お薦めします。
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