〈教科書に載せたい英文〉では、ルターが「こういう例文で英語を学びたい!」「ああ! 上手い表現だな~!」と感じる、お勧め英文を紹介します。
Facebookの記事であがってきた「希望を失った男性の死」。YouTubeに動画もありました。
別ブログに2022.10.22に書いたものを再編しています。
話のキモは、今の私の言葉で言えば「他人軸になって、他者に期待するのはダメだ」ということ。フランクル『夜と霧』と重ね合わせて、ルターが解説します。
「希望を失った男性の死」の話
英文と和訳
On a cold night, a billionaire met a poor old man outside. He asked, “Aren’t you feeling cold outside, and you’re not even wearing a coat!” The old man replied, “I don’t have a coat but I’m used to it.” The billionaire replied, “Wait for me. I’ll just go home and get you a coat.”
The poor man was so happy and said he would wait for him. The billionaire got to his house and got busy there and forgot about the poor man. The following morning, he remembered the poor old man and went out to find him but found him dead due to the cold.
The poor old man left a letter saying, “When I had no warm clothes, I had the mental strength to fight the cold, but when you promised to help me, I clung to your promise and it killed my mental power.”
Don’t promise anything if you can’t keep your promise. It may not be necessary to you, but it could be everything to someone else.
★MackintoshさんのFacebook投稿(一部訂正) 2022/10/15
DeepL翻訳を調整した和訳:
ある寒い夜、億万長者が外で貧しい老人に出会いました。彼は、「外は寒くないか、コートも着ていないのに!」と尋ねました。老人は、「コートは持っていないが、慣れている」と答えた。億万長者は「待ってくれ。家に帰ってコートを取ってくるから」 と答えた。
貧乏人はとても喜んで、彼を待つと言った。億万長者は自分の家に着くと、そこで忙しくなり、貧しい人のことを忘れてしまった。翌朝、億万長者は老人のことを思い出し、探しに出かけたが、老人は寒さのために死んでいた。
その老人は、「暖かい服がないときは、寒さと戦う精神力がありましたが、あなたが助けてくれると約束したとき、私はあなたの約束にしがみつき、そのせいで、私の精神力は死んでしまいました」という手紙を残しています。
約束を守れないなら、何も約束してはいけない。自分にとっては必要ないことでも、他の誰かにとっては全てかもしれないのだから。
ルター式 解説
この話(上記★)は、高校で川島完先生が教えてくださった、フランクル『夜と霧』のアウシュビッツ強制収容所でのクリスマス解放のエピソードと重なった。
クリスマスに解放されるという噂が広がり、クリスマス解放がなかった時、失望・絶望した人々が死んでしまったという。近年、本も読んだが覚えているのはこのエピソードのみ。教訓は残った。
今の私の言葉で言えば「他人軸になって、他者に期待するのはダメだ」ということ。
『夜と霧』の該当箇所を読み返してみた。「クリスマス解放のエピソード」の後に出て来るのが、フランクルによる「コペルニクス的転回」(視点を百八十度変える)だ。私たちが人生に対して「生きる意味がない」と決めつけるのではなく、人生が自分に問うてくることに答えていけば良いということだ。生きていれば生きる意味がわかってくるとも言える。
重ねて、諸富祥彦氏の説明がわかりやすいので引用します:
フランクルによると,「いったい,なぜ,自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。こんなことにどんな意味があるのか」という「人生の意味」についての嘆きは,その問いの立て方そのものが誤っている。
私たち人間がなすべきことは,生きる意味はあるのかと「人生を問う」ことではなくて,人生のさまざまな状況に直面しながら,「人生から問われていること」に全力で応えていくこと,ただそれだけだというのです。
(諸富祥彦 NHK教育テレビ「100分de名著」番組テキスト)
●フランクル著、池田香代子訳『夜と霧 新版』みすず書房2002年
p. 128-128の引用: 医長によると、この収容所は一九四四年のクリスマスと一九四五年の新年のあいだの週に、かつてないほど大量の死者を出したのだ。(中略)この大量死の原因は、多くの被収容者が、クリスマスには家に帰れるという、ありきたりの素朴な希望にすがっていたことに求められる、というのだ。(中略)
(ニーチェの格言)「なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きることにも耐える」(中略)
ここで必要なのは、生きる意味についての問いを百八十度方向転換することだ。わたしたちが生きることからなにかを期待するのではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちにからなにを期待しているかが問題なのだ。(中略)もういいかげん、生きることの意味を問うことをやめ、わたしたち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ。
フランクル著、池田香代子訳『夜と霧 新版』みすず書房2002年
●フランクルの考え
もし人が,自分の欲しいもの,やりたいこと,なりたいものなどを探し続けていくと,どうなるでしょう。人間の欲望には際限がないので「もっともっと」と何かを求め続けてしまいます。そしてその結果,人は絶えざる欲求不満の状態に追い込まれてしまいます。
自分の人生に与えられた固有の使命(ミッション)をまっとうしていく,という人間本来のあり方へと立ち戻ることで,人ははじめて慢性的な欲求不満から解消される。
フランクルによると,「いったい,なぜ,自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。こんなことにどんな意味があるのか」という「人生の意味」についての嘆きは,その問いの立て方そのものが誤っている。
私たち人間がなすべきことは,生きる意味はあるのかと「人生を問う」ことではなくて,人生のさまざまな状況に直面しながら,「人生から問われていること」に全力で応えていくこと,ただそれだけだというのです。
一般的なカウンセリングでは,
「あなたは本当は何を望んでいるのでしょう」
「それを見つけるためにあなたの心の中を覗いてみましょう」と気持ちを内側に向けることを勧められることが多いかと思います。フランクルが呼びかけるのは「視点の転換」です。
諸富祥彦 NHK教育テレビ「100分de名著」番組テキスト p.45 p.42 p.44 要旨
「あなたの内側になにかを探し求めないで下さい」
「あなたの心の内側をのぞき込まないでください」
「この人生で,あなたに与えられている意味,使命は何でしょうか」
「あなたのことを必要としている誰か,あなたのことを必要としている何かが,この世の中にあるはずです。その誰かや何かに心を向けましょう」
「その誰かや何かのために,あなたにできることには何があるでしょうか」
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