2023.3.8に元記事(2022.11.27)を3分割しました。
この記事では「中学校英語スピーキングテスト」(ESAT-J)の全般的な問題点を挙げます。
以下の別記事もご参照下さい。
中学校英語教員の中村です。ルターさん、よろしくお願いします。
1)第3回2021年度の動画と「ルターのメモ」
以下は、過去問を見て、ルターが要約したメモです。
令和3年度の問題 秒数は「準備時間、回答時間」
Part A 30秒。英文音読(40語程度)。
概要「寒いのが嫌い。冬山に行きたくなかったが楽しかったのでまた行きたい」
Part B 10秒。
No.1 地域のウォーキングイベントのチラシ(日時・場所・持参物)。チラシについての質問に答える。
質問:What do we need to bring with us to the event?
解答例:We need to take water and a cap.
その他の解答例(一部):You should bring a bottle of water and a cap.
No.4 シャーペン、鉛筆、消しゴム、リュックの4つのイラストのみ。
欲しい商品を選び、買うために知りたいことを店員に尋ねる。
解答例:How much are the [pens/pencils/erasers/bags]?
解答例:Where are the [pens/pencils/erasers/bags]?
解答例:I want to buy the [pen/pencil/eraser/bag]. What colors do you have?
Part C 準備30秒、回答40秒。
◆ I を主語にすると指定「登場人物になったつもりで英語で話すこと。」
◆ ディスコースマーカー:First/Thenなどを使うようアドバイス。
◆ 4コママンガ:「誰が何をしたか、何がどんなだったか」を伝える。
① 女性がピアノを弾こうと思い立った。
② 楽譜の本を探そうと本棚に行ったが見つからない。
③ 上の棚から本が落ちてきて頭に当たった。
④ 落ちてきたのは探していた本だった。
解答例 Bレベル:I wanted to play the piano. So, I looked for my piano book. Then, a book fell on my head. It was the piano book.
中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)直前チェック! 東京都国際教育チャンネル https://www.youtube.com/watch?v=3mTFjEN4DcA
解答例 Aレベル:One day, I decided to play the piano. I needed my piano book, so I looked for it on the shelf, but I couldn’t find it. Then, one of the books fell from the shelf, and it hit me on the head. I looked at the book. I was surprised because it was the piano book!
ルターが考えた要約文:DeepL翻訳に「私はピアノを弾こうと思い立った。私はピアノの楽譜の本を探そうと本棚に行ったが見つからない。すると、上の棚から本が落ちてきて私の頭に当たった。落ちてきたのは探していた本だった。」を入力。
DeepL訳語:I decided to play the piano. I went to the bookshelf to look for a book of piano scores, but could not find it. Then a book fell from the top shelf and hit me on the head. It was the book I was looking for.
Part D 回答40秒。ビデオレターで質問された想定。「意見とそう考える理由を詳しく話す」
動画では、「意見を伝える表現(I think that, I agree that, I don’t thinkなど)」「理由を伝える表現(Because …, That’s because … など)」を使うようアドバイス。
読み上げられる英文の概要:「日本では生徒が学校を掃除しているとテレビで知ったが、自分の学校ではschool workersが掃除している。あなたの意見が訊きたい。誰が学校を掃除すべきか、また、なぜそう思うか。」と姉妹校の生徒・ジョンが問う。
解答例 Bレベル:I think students should clean their schools. I think so because students can learn about working together.
解答例 Aレベル:省略(動画でご確認ください)
中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)直前チェック! 東京都国際教育チャンネル https://www.youtube.com/watch?v=3mTFjEN4DcA
2)内容面での問題点
内容面と制度面の問題点を分けます。まずは内容面です。
問題点① 全体(Part A~D)の話題が一貫していない
以下をご覧ください。全体を通じてPart A~Dの話題がバラバラです。
それに対して、英検もアイエルツも「話題は1つ」にしています。
短時間の面接試験で話題を一貫するのは当然のことでしょう。
●第3回2021 ESAT-J(動画)で扱っている話題はバラバラ Part A 「寒いのが嫌い。冬山に行きたくなかったが楽しかったのでまた行きたい」 Part B No.1 ウォーキングイベントのチラシ(日時・場所・持参物)→持参物が飲み物と帽子 No.4 シャーペン、鉛筆、消しゴム、リュックの4つから商品を選び、買うために質問。 Part C 女性がピアノの楽譜を探すが見つからない。棚から落ちてきた本が楽譜だった。 Part D 「日本では生徒が学校を掃除している」その「是非」+「理由」を言う。
問題点② Part B 話題がバラバラで短時間(10秒×2)
Part BのNo.4 シャーペン、鉛筆、消しゴム、リュックの4つのイラストのみ。
中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)直前チェック! 東京都国際教育チャンネル
「欲しい商品を1つ選び、それを買うために知りたいことを店員に英語で尋ねる」
解答例:How much are the [pens/pencils/erasers/bags]?
解答例:Where are the [pens/pencils/erasers/bags]?
解答例:I want to buy the [pen/pencil/eraser/bag]. What colors do you have?
https://www.youtube.com/watch?v=3mTFjEN4DcA 第3回2021年度の問題
Part Bも全部話題がバラバラで、
4つの品物(シャーペン、鉛筆、消しゴム、リュック)のうちから
ひとつを選び、質問文を考えるのに10秒、答えるのに10秒って、キツいです。
ルター先生のおっしゃるように、短時間で頭を切り替えるのが難しいです。
出題が思い遣りに欠けています。
「買うために知りたいこと」という出題は、配慮したつもりなのは理解できるが、抽象度が高い。何を質問して良いか悩んでしまいます。
解答例が気になる①How much are the bags? ← 複数個買わない!
出題も生徒にとって過酷ですが、解答例もおかしいと思いませんか?
場所を訊く Where are the [pens/pencils/erasers/bags]? は、OKですが、
値段を訊く How much are the [pens/pencils/erasers/bags]? は、ダメでしょう。
どう考えてもbagは複数個買わないでしょう。
1個を想定して、I’d like a bag. How much is it? が答えの例にふさわしいと思います。
解答例が気になる②the pen → 1本なら a pen、2本以上なら some pens
Oh, we also have a special sale today.(DeepL翻訳:あ、今日は特別セールもやっていますよ。)が読み上げられた後の解答例の I want to buy the [pen/pencil/eraser/bag]. What colors do you have? セールのペンだから the pen/ the pens でも良さそうですが、このtheがルターは気になるんですよ。
the penでは、ダメなんですか?
ダメとは言わないが、模範例としては気になるんです。
英語の名詞の使い方ですが、一般的な話題では【無冠詞】、具体的な話題では【a/an/some】が基本。【定冠詞the ~】は「その場のthe」「話し手と聞き手の場のthe」「論文のthe」などの使い方があります。
I need/want~.のあとには【a/an/some】を使います。
・1本なら、I want to buy a pen.
・2本以上なら、I want to buy some pens. ですよ。a/someを使ってほしいですね。
DeepL翻訳で「そのセールのペンが欲しい」を試したら、
I want to buy a pen from that sale.が最初の翻訳でしたね。the penは2つめの翻訳でした。
「a/someをきちんと教えない」日本の英語教育の根本がおかしさがこういうところに露呈しているとルターは思うんです。
なるほど。
問題点③ 指示文が日本語 → 英語にすべき
英語の指示文にしていないですが、どういうことでしょうか?
指示文が日本語でないと答えられないと思うなら、スピーキングテストはしないことです。
「日本語にすればわかるだろう」というのは、日本人教員が頭で考えているからですよ。
英語の試験なのですから、英語の指示文でいいんですよ。
やさしい英文で書いたり、1問目の答え方を例示してあげればよいのです。
日本語の頭から英語に切り換えたり、英語から日本語に切り替えたりの方が大変ですよ。
確かに。
問題点④ ストーリーテリング(4コマ漫画)に英語のリード文がない
ESAT-Jの最悪な問題点は、Part Cの4コマ漫画ですね。
英語のリード文がない。4コママンガを英語で物語るための「出だしの英文」です。
英検の問題には英語のリード文ありますよ。
英検2級(高校卒業レベル)「3コマでリード文あり」。
英検準1級「4コマでリード文あり」。
中学3年生に「4コマでリード文なし」って、難しすぎでしょう!
問題点⑤ 「4コマ漫画」 は英検準1級レベル!→①1~2コマが適切
Part Cの4コマ漫画のストーリーテリングは英検準1級レベル。
中学3年生が「3級レベル」だとしたら、1コマ漫画が適切。多くても2コマです。
(準備時間も回答時間も)時間が少ない。
中学3年生「4コマでリード文なし」準備30秒、回答40秒
英検準1級「4コマでリード文あり」準備1分、回答2分
ESATJは英検準1級より難しい! ありえん!
参考例 英検の面接カード(好例ではない)
ルターが「面接で好ましい例」として想定しているのは、IELTS(アイエルツ)です。
英検は「好例というわけではない」と思います。
ルターは英検の試験のあり方を好ましく思っておりません、制度面でも、試験内容面でも。
ですが、「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)」よりはマシですし、基準に使えます。
ということで、ご覧ください。中学3年生に4コマまんがの説明は難しいでしょう。
- 3級(1コマ)https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/virtual/grade_3/pdf/grade_3.pdf
- 準2級(2コマ)https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/virtual/grade_p2/pdf/grade_p2.pdf
- 2級(3コマ)https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/virtual/grade_2/pdf/grade_2.pdf
- 準1級(4コマ)https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/virtual/grade_p1/pdf/grade_p1.pdf
問題点⑥ 4コマ漫画で「Iを主語」「過去形」と指定するのは良くない
昨日の出来事を「イラストに登場する人物になったつもりで英語で話す」という指示文なので、「Iを主語にして、過去形で話す」指定をしている。この指示は前代未聞。
a) その人物に成り代わって言うなんて不自然。ふつう、HeやSheが主語でしょ!
英検は、I じゃないですよ。HeやSheですよ。
b) 4コママンガの説明では、【過去形】だけではなく【現在形】も使える。
She wants to play the piano. So, she looks for her piano book. のように
ト書きのように「こうしてああして…」と言うのは自然な発話。
参考ですが、ブリティッシュカウンシルのWEBページにある、シェイクスピアの戯曲の要約は【現在形】で書かれています。
Shakespeare – Romeo and Juliet
https://learnenglishteens.britishcouncil.org/study-break/video-series/shakespeare/shakespeare-romeo-and-juliet
問題点⑦ 「some+複数形」を無視しないでほしい
消しゴムの場合、1つだけ買うとは限らない。an eraser, some erasers の可能性があるが
答えの例で「some+複数形」を無視・排除しないでほしい。
DeepL翻訳に「消しゴムを買いたい。何色がありますか?」を入力。
DeepL訳語:I want to buy an eraser. What colors are available?
DeepL訳語(パラフレイズ):I want to buy some erasers. What colors do you have?
3)制度面での問題点(新英研、現場の先生の声)
制度の欠陥を指摘する教員・保護者から、実施反対の声が高まっていたのはご存じでしょうか。
ルターの意見では、私企業・ベネッセに「個人情報が集まること」「公的な事業を委託すること自体」が根本的におかしいですね。また、調べた結果、生徒たちへの事前準備が不十分(動画を観ていない生徒がいる)だったのではないでしょうか。
問題点① 生徒たちへの事前準備が不十分、参考動画を観ていない生徒がいる
動画「3回2021年度 スピーキングテスト」には「8,285 回視聴 2022/11/11 ※この動画は令和4年10月27日(木)に公開したものと同じです。」って、書いてありますが、
受験する生徒たちは全員観たのでしょうか?
観たと観ないとでは、結果がだいぶ違ってくると思います。
コメントで、生徒らしき人から初めて知ったかのようなことが書かれていました。
全員が観たとは言いがたいですね。
以下のようなお知らせや練習できる動画が周知されていたのか、
現場の先生方の声を集めて欲しいですね。
参考:東京都教育委員会のサイトにある「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)のお知らせ ~都立高校入試への活用について~」(令和4年7月)PDF [490.5KB]
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/admission/high_school/exam/speaking_esat-j.html
問題点② 中学校ではなく遠方の別会場で実施問題点③ 問題漏洩の心配(試験15分・待機時間3時間。午前・午後で2分割)問題点④ 生徒が自信をなくし、不安になるような試験
YouTubeには新英研チャンネル Shin-eiken Channelがあります
みなさんも是非、ご登録ください。
2022年11月17日、新英研チャンネルで、この動画がアップされていました。
問題点⑤ スピーキング対策をしなくてはならない受験生への負担が大きい問題点⑥ 「スピーキングに慣れている人」が有利(学習到達度は別)
この動画では上記の2つの点を指摘しています。
●問題点⑥ 「スピーキングに慣れている人」が有利(学習到達度は別)
ルターから補足意見:下の3つの回答で点差をつけられますか?
DeepL翻訳は完璧ではないが参考になる。
DeepL翻訳に「消しゴム、いくらですか?」を入力。
DeepL訳語:Eraser, how much?
DeepL訳語:Eraser, how much is it?
DeepL訳語:How much is the eraser?
問題点⑦ ベネッセへの利益誘導が半端ない!
上記の動画に描いてありますが、ベネッセ作成で5億円だそうですね。
また、ベネッセはGTECで同じ形式をやっている。模擬試験でお金もうけが可能。
かなり昔ですが、かつて旺文社が全国模試で制覇していましたが、その牙城を今やベネッセが奪い、学校現場に入ってきています。
繰り返しますが、私企業・ベネッセに「個人情報が集まること」「公的な事業を民間委託すること自体」が根本的におかしいですね。同様に、英検が大学入試に入り込んでいるのもおかしいとルターは思っています。
試験形式なんて、そんなに変えなくていいんですよ。時間泥棒から時間を取り返して、みんなで穏やかに英文の物語や詩を読んだり、英語の歌を歌いましょうよ!
余談ですが、ルターは「解答例」という言い方が気になります。
面接試験の答えは辞書的な定義では「解答」を使うということで「回答」は使えないようです。仕方ないので、言い換えとしては model answers(模範的な答)になります。
英語は、answer the question(問いに答える)です。
数学は、solve the problem(問題を解く)です。
英語は数学ではない。「英語の問題を解く」という日本の英語教育の不健全な発想が言葉遣いに透けて見えます。「英語の問題を解く」という洗脳・呪縛から授業者も学習者も早く解放したいとルターは願っています。
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